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Cutty Sark

Cutty Sarkは常に夢を追い続ける希望の帆船です。I still have a dreamのこころざしを持って海図にない航路を切り開きます。

負けざる者たち

2010.06.15

天然石で最も高硬度のダイヤモンドは、その硬さゆえに原石同士で磨かれるといいます。
そして、研磨され輝きさを増した8面体は人々を魅了して止まない。特に女性に。

人もまた、人間同士の関わり合いを通じて切磋琢磨されるものです。
「切磋琢磨」は詩経に出でくる故事です。
角や象牙を刀で切り出し、やすりで研ぐことを"切磋"といい、また玉や石を槌で打ち、砂や石で磨きをかけることを"琢磨"と云うそうです。詩経に綴られたこの意味は、学ぶだけでは表面的であり、徳をおさめるために、努力に努力を重ねるとあります。

先日10年来の知人と食事後の二次会々場へ向かう途中の出来事です。タクシーは、丁度新宿の職安通りをノロノロと走っていましたが、僕を肘で突っつきながらニッコリと笑いながら指を指します。
彼の白く長い人差し指の先に巨大なスクリーンがありました。
「あぁ、あれかと」とボクが頷きました。少し前の話題がワールド・カップでした。職安通りにある「大使館」という焼肉屋さんがありますが、そこの駐車場入口に巨大なスクリーンを設置し、集まってくる韓国人観客に対してW杯の実況放送すると云うのです。設置は2002年のW杯からだそうです。いまや名物になっているとか。
彼の説明によると、
ここ職安通りと新大久保は韓国人の人口密度が極端に多い衣・食・住の街だそうです。そう云えばハングル語の看板が数多く見受けられます。
すでに先週から始まったW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)で韓国とギリシャ戦が先週土曜日の夕刻に行われています。結果は2:0で韓国の圧勝に終わっていますが、この巨大スクリーンの前では集まった韓国人群集の狂乱さが十分想像できるスクリーンの大きさです。

深夜の渋滞のタクシーの中で彼の話をぼんやりと聞きながら、ボクは全く別なことに想い耽っていました。それは数ヶ月前に見た映画で、その時に感じた記憶が再び蘇って、ひとり感動の渦にいたわけです。一生懸命説明している知人は少々滑稽でしたが、それでも彷徨っていた時間は5分とは経過していなかったと思います。

それは実話の映画化でした。
俳優は最も好きなモーガン・フリーマンとマット・デイモンの競演で、監督はクリント・イーストウッドという豪華さです。オスカーを四つも取ったクリント・イーストウッドが、監督第30作にこの『インビクタス/負けざる者たち』という映画を選んだそうですが、後日このキャッチコピーは制作会社の作りだしたものだと言うことが、イーストウッドのインタビューで分かりました。天才職人イーストウッドは、自分が何作作っているかなどと、あまり気にしていない事が分かったからです。
この映画はサッカーでなく「ラグビーのワールドカップ」の物語です。

主人公はモーガン・フリーマン扮するネルソン・マンデラ大統領とマット・デイモン扮するラグビー・ナショナルチームのキャプテンであるフランソワ・ピナールの二人です。
南アフリカにとって、「ラグビーやサッカーは単なる娯楽的なスポーツに留まらない!」
それを証明してくれたのがこの映画でした。
この映画の社会背景は、1994年に南アフリカ共和国で初の黒人大統領となったネルソン・マンデラの登場から始まります。マンデラは、白人支配によって約三世紀半の長きに渡った悪習「アパルトヘイト(人種隔離制度)」による人種差別に終止符を打ち、ゆっくりとですが確実に新しい南アフリカ共和国をスタートさせます。

映画の話に戻りますが、
ネルソン・マンデラ大統領を演じたのは、「モーガン・フリーマン」ですが、とにかくさまになっていました。イーストウッドの配役は絶妙です。この役は彼しかいない。フレンドリーで親しみやすく、しかも物静かで、ただし信ずる主義については妥協を許さないという役を淡々と演じました。それが良く似合っていましたし、見るものに好印象を与え続けます。
また、南ア・ラグビーチームの主将であるフランソワ・ピナール役の「マット・デーモン」は、心に秘めた闘争心を知的な風貌の中にも伺えるスポーツマンという役柄に徹していました。
冷静に激するというキャプテンの役割をスマートに演じます。

ラグビーの世界ではニュージーランドは世界の強豪でした。
その強豪を破って、南アフリカが1995年、第3回ワールドカップの開催国として初優勝したことは、ラグビーファン以外にはあまり知られておらず、大多数の日本人がこの映画の上映で知ったというのも頷けます。

冒頭の切磋琢磨は、友人同士で励まし合い、競い合って向上する意味にも使われます。映画はラグビーでしたが、南アフリカ共和国のアバルトヘイトの時代、サッカーは抵抗と尊厳の象徴であったと言われています。人気においても黒人組織のリーグは規律正しく整然と管理運営され、白人リーグをしのぐ勢いがあったと。
この映画においても、随所に南アのサッカーが抵抗と尊厳の象徴であることがよりはっきりと認識できます。

『論語』に「我(わ)れ三人行(おこな)えば必ず我が師を得(える)」とあります。たった三人でも行動を共にしたら、そこに自分の師を見つけることが出来ると云う教えです。
常に向上するという強い意志を持てば、きっと皆が師であり、学び合うことが出来ると言う意味になるのではないでしょうか?
であれば、南アの子供たちがサッカーというスポーツを通して、ネルソン・マンデラ元大統領の意思を継いでいくことでしょう。

最後にこのブログを書いている時に偶然にも悲しいニュースに遭遇しました。
サッカーW杯最中、
ネルソン・マンデラ元大統領のひ孫である女の子が、ヨハネスブルク近郊で開催された、サッカーW杯の前夜祭に出席した帰りに交通事故に出会い亡くなりました。偶然にも前夜祭とは残念でなりません。
このような華々しい日に、不慮の事故でひ孫を亡くしたマンデラさんはどんなに悲しんだことでしょう。速報なので不確定ですが、事故を起こした車の運転手は飲酒運転の疑いがあるそうです。
彼は、当然のことですが同日予定していたW杯開会式への出席を取りやめると発表しました。

 

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