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Cutty Sark

Cutty Sarkは常に夢を追い続ける希望の帆船です。I still have a dreamのこころざしを持って海図にない航路を切り開きます。

再び黒船

2006.07.02

大西洋横断競争」は1830年代の終わりに差し掛かった時に突然起きました。
それは「蒸気力」の発展に関する劇的な進歩、発展への期待感による大西洋横断の「定期蒸気船航路開設」の機運が高まったからです。

勿論大西洋横断定期航路は「帆船」でした。開設は1818年と古く「ブラック・ボール・ライン」が運行していました。
横断に要した日数は非常なばらつきがあり、「最短で16日」ですが「最長では73日」もかかっていたようです。この日数の開きが風任せの帆船という事なんですね。帆船の大きさは初期の時代は300㌧程度でしたが、後年1000㌧を超えるサイズまで現れましたが、「速度の向上」は改善されませんでした。推進力は「自然の風」ですから当然です。
年間平均航海数は30日台といったところでした。
蒸気船の場合は計算上、少なくとも15-16日間で横断が予測でき、最短も最長も殆ど差は無いはずです。
帆船の速度の不安定さを考えれば蒸気船の長所は歴然です。
なので、誰がが「定期航路用の蒸気船」を建造すれば、当然の如く競争原理が働き、ライバル会社が立ち上がります。

1836年には「イギリス-アメリカ汽船会社」が設立され、ロンドン-ニューヨーク間に最新鋭の豪華客船の投入を計画し、建造に入りました。それが「ブリティッシュ・クイーン号」〔1863㌧〕で当時の蒸気船の中でも最大級で25日分の石炭と800㌧の貨物と500人の乗客を乗せる事ができるという計画でした。

そして同じタイミングで「鉄道と海底トンネルと船舶」に多彩な能力を発揮した「ブルネイ」が設計と製造の指揮をとった「豪華客船」がありました。
今から170年前の1836年7月に建造を開始した「グレート・ウェスタン号」です。建造から一年後、ブリストルで進水し、ロンドンに回航されエンジンを据え付けました。現在の造船方式とだいぶ異なっています。
現在では船の形が出来上がるとエンジン・ユニットがパーツの様に工程の一部としてセットされます。
グレート・ウェスタン号は全ての艤装を完了し、ロンドンから母港のブリストルに戻り、1837年4月8日午後二時に蒸気定期船航として始めての航海に臨みました。二度主機関を停止するトラブルはあったものの4月23日の午後にニューヨーク港に到着します。「所要航海日数は15日間」でした。乗客はたったの7人であったと言われています。
この日ニューヨーク港の桟橋はこの船を見ようと大群衆が集まったようです。
それは「新しい大西洋航路という時代の幕開け」を象徴する出来事であったと当時の新聞が語っています。

一方「ブリティッシュ・クイーン号」はようやく完成し、同年7月にニューヨーク航路に投入されました。この船は7回大西洋を横断しています。その後イギリス-アメリカ汽船会社は新鋭船「プレジデント号」〔2366㌧〕を投入します。

まさしく、本格的な「大西洋航路の幕開け」です。


〔海上を飛ぶように疾走する次世代高速船「テクノスーパーライナー(TSL)」〕

ペリー提督が1853年7月8日に「四隻の艦隊」を指揮して浦賀水道を深く入り込んだ時の衝撃を我々は「黒船」と呼んでいます。
そして、帆船でなく「蒸気力のみ」で大西洋横断した汽船を当時のニューヨークっ子は「黒船」同様の衝撃を受けた事でしょう。
大西洋を汽船で横断する事は「快挙」だったのです。それまで(1819年に米国の「サバンナ号」〔320㌧〕が横断したという信憑性の欠ける出来事があるが)は単に夢で帆船以外に手は無かったのです。

そして、「平成の黒船」が従来の船舶の記録を破りつつ登場しました。
その名は「テクノスーパーライナー(TSL)」といいます。


〔海上を飛ぶように疾走する次世代高速船「テクノスーパーライナー(TSL)」〕
一万㌧以上の船体を45ノットという常識を覆す速力を出すTSLは今後とどこに向かうのでしょうか?

飛行機よりも低コストで従来の船よりは高スピードというコンセプトで政府の「ミレニアム・プロジェクト」の「国策」の一環として運輸省を中心に造船会社や海運会社など関連業界が中心となって研究・開発を進めているプロジェクトです。
その最終アウトプットが「テクノスーパーライナー(TSL)」です。
この船は国内主要港およびシンガポール・上海など東アジアの主要港を結ぶ「海の新幹線」とも言うべき航路に投入予定で設計されました。長距離貨物のトラック輸送から鉄道・海上輸送への転換計画「モーダルシフト」の主力としても期待されいます。

当面の目標は「搭載重量1000トン、速力50ノット、航続距離500浬(マイル)」です。この中で「速力50ノット」というところが常識外のスピードですね。


〔次世代推進力・ウォータージェット・ニュット〕
高出力ガスタービンから巨大なパワーを得てウォータージェットは大量の水量を吐き出し、想像を絶する推進力を得るが、その源は高価な「軽油」です。

  □TSLの燃料に軽油を使用せず、廃油からリサイクルし、
   環境にも優しく安価なバイオディーゼル燃料駆動化のための運動も盛んです。


〔アルミニウム合金に包まれた高出力エンジン〕

「テクノスーパーライナー」は先日の紀伊水道で実証実験で「時速83キロ」を達成しました。ノット換算で「45ノット」です。
■にっぽん丸で航海速度17ノット、最大で21ノットです。
■ふじ丸も最大で21ノットです。
   □1kt(国際ノット:international knot または metric knot)=1852 m/h

このスピードを考えるとTSLのスピードは異様です。飛んでいるようです。
まさにそうなんです。但し、核分裂とか超伝導とか画期的な概念が「生まれた」訳ではありません。
早く走るには船を浮揚させて水の抵抗を押さえる方式(早い話が水中翼船とホバークラフトです。)を採用しています。
その圧倒的なパワーを得るために主機関にガスタービンや推進方式をウォータージェットとしています。
もう一つの試みは「アルミニウム合金」を使って船体を軽量化したことにあります。このアルミニウム合金船体で「1万4000総㌧」の箱〔客船〕を完成させています。航続距離は2500㌔㍍です。


〔ウォータージェットシステムを格納した海水の噴出しユニット〕

そして、このニュースです。

『当初は東京―小笠原航路で就航予定だったが、運航会社の小笠原海運(東京・港)が「原油高で年間赤字額が最大20億円になる」として昨年に利用を断念し、新たな引き渡し先は見つかっていない。三井造船は建設費の約115億円を回収できず、維持費の負担も発生している。』

小笠原諸島に住む人々は「自然保護」の目的もあって空港が作れないでいます。公共交通手段の船は6日に約1便の「客船おがさわら丸」で片道25時間です。不定期貨物船第28共勝丸は片道約45時間もかかります。
そのためTSLの運行は念願だった聞いています。
現在のTSLの燃料は軽油です。現在の価格で一往復に2500万円近く、従来の重油の4倍近くの差がでます。
また、新技術の塊ですから当然ながら整備コストも高くなります。

支援を予定していた東京都が撤退、それに続き国土交通省も撤退し、運行会社の小笠原海運(株)は、支援が受けられないのならば運行しても半年で会社が倒産するということで、TSLの受け取りを拒否した形になっています。
「テクノスーパーライナーである『SUPER LINER OGASAWARA』」は運行されないまま廃船になる可能性もあり、現在も建造所である三井造船玉野事業所に繋留されたままです。

平成の黒船は「宝の持ち腐れ」になりつつ、活躍場所をじっと堪えて待っています。

 

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