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Cutty Sark

Cutty Sarkは常に夢を追い続ける希望の帆船です。I still have a dreamのこころざしを持って海図にない航路を切り開きます。

再び早間美紀に出会う

2009.06.21

高校生のころ、当時FM局二局しか存在しなかった。
その一つ、NHK-FM局で朝のひと時を音楽番組として「バロック音楽」を流していました。
バロック音楽は1600年からバロック音楽の最大の巨匠であるヨハン・ゼバスティアン・バッハの他界によって締めくくられるわずか100年少々の音楽のスタイルです。
当時のラジオの音質は今と全く異なり、単に音が出ている程度でしたが、FM局はその方式から全く異なりました。ノイズが少なく、透明度が高く、ステレオで高音質の今でいう「無料音楽放送局」でした。なので、当時一年分くらいの小遣いをためてFM専用チューナーを購入し「バロック音楽」を楽しみました。
この番組の解説員が「皆川達夫」でした。
当時私は、この解説員のことは全く知らず、単にバロック音楽のエスコート役くらいにしか意識がありませんでした。しかし、バロック音楽を聞いたのは高校の三年間のみで、その後は全く聞く機会にありませんでした。

その後長い年月を経て「皆川達夫」に再び出会うことになります。
それは「バロック音楽」でなくきっかけは「お能」でした。

私にはJazzの師匠がいます。
彼とは10年以上前に一緒に仕事をしていました。知りあってから四半世紀になります。知りあったころは二人の年齢の違いよりも、数倍もかけ離れていた様な気がします。実際に役職的にもかけ離れていました。それほど私自身が、世間知らずで経験値の少ない子供であったからでしょう。それが年々、差が縮まり実際の年齢差になったのは10年も経てからだと記憶しています。長い10年でもあり、あっという間の10年でもありました。後半は比較的好みなJazzアーティストが演奏しているとライブハウスに出かけるようになりました。そして彼が健康上の理由から現役を離れると、いつの間にか私の師匠になっていました。
師匠は美しい高原の山の見える場所に、自分好みのログハウスを建てて、愛妻とその次に愛しているワンちゃんと優雅に楽しく過ごしています。そして、止めどなく仕事をしている私に遠くから、「早間美紀のライブ」の情報を送ってきます。
なんとありがたい。とは思いながら実は深い意味があります。
彼のFYIは一年半米国でライブ活動して成長したであろう彼女の近況を自分の代わりに見て、聴いて来いというわけなんです。

そして、「早間美紀」に一年半ぶりにあった。

場所は彼女が都内のライブハウスで最も好きな「BODY & SOUL」です。
あの京子ママのジャズ・ライブハウスです。
もちろん、美紀ちゃんは僕の事をよく覚えていました。
きっと前回は師匠と一緒にいたので、師匠の印象が強かったので、必然的に私の印象も記憶にあったのではと思います。

早間美紀は前々日NYを飛び立って5月13日の吉祥寺・SOMETIMEから始まり、15日の青山・B&Sを経て24日名古屋・STAR EYESを最後に翌日にはNYに帰るというまさに風のように駆け抜けたプライベート・ツアーでした。
演奏は日本でセットされた早間美紀(pf) 井上陽介(b) 小山太郎(ds)のトリオです。

一年半ぶりに会った「早間美紀」は以前より逞しく(いゃ、失礼!)、大人びた雰囲気でピアノの前に立ちました。そういえば、挨拶代わりに新型インフレエンザの影響もあって入管から携帯に発熱や咳の問い合わせがあって、たいへんですぅ。とこぼしていました。
今回のツアーは「早間美紀 NewCD《ワイド アングル》発売記念」ともうひとつ重要な意味を含んでいました。
それは、スイングジャーナル第8期"ゴールドディスク"受賞記念という快挙付きです。

彼女はこの受賞でNY在住ながら、人気も実力も兼ね備えた超一流となった訳です。
もともと実力は他を圧倒していたので、結果としては実績が後追いでついてきたということでしょう。

10曲のうち彼女が特に好きだというGeorge GershwinTommy FlanaganとメンバーのDrums Mr.ビクター・ルイスの曲をフィーチャーした3曲を除いて、あとはすべて彼女のオリジナルです。何とすごいことだ。
Gershwinは私も大好きです。参考にニューリリースの全曲を加えます。


アルバム・タイトル「WIDE ANGLE

1.What's Next?           6:58 (Miki  Hayama)
2.Flying Horses         8:27 (Miki Hayama)
3.Another Angel         6:37 (Victor Lewis)
4.Horizon                       7:56 (Miki Hayama)
5.Who Cares?                  6:43 (George Gershwin/ Ira Gershwin)
6.Sound of Migration         5:05 (Miki Hayama)
7.Freight Trane                 4:21 (Tommy Flanagan)
8.Dismissed                    7:15 (Miki Hayama)
9.Up & Down                    5:40 (Miki Hayama)
10.A Time For Peace        8:07 (Miki Hayama)
         Produced by Miki Hayama
      早間 美紀  (p,vocal on track 8) 
      北川 潔   (acoustic bass)
      ビクター・ルイス  (drums) 

早間美紀の最大の魅力は、音の厚みとスピードとビート感だと思う。
とにかく音の厚みが重厚で、それを全くブレないビート感がぐんぐんと引っ張っていくようだ。
加えて気さくな可愛いお嬢さんという気質も魅力的だ。その人なつっこい性格は作曲にも表れている。

そして、彼女のサイン入りのこのアルバムを30回ほど聴き込んでみました。印象に残った数曲を。
What's Next? 」はテーマが4分の9拍子の変拍子という変則的なリズムですが、とても速いテンポでクラッシックの曲のように進行しますが、でも単に軽やかで早いだけというのではなく、やはり彼女が弾くと、ジャズ・ピアニストだと納得できるほど、すべての音がスィングしている感じがします。そして、どんどん引き込まれて行きます。深くふかくどこまでも。アルバム出だしの選曲としては、とてもいい選曲です。仕上がりも最高です。
「Flying Horses」は回転木馬と意味らしいですがとてもつなくいいです。前半は幻想的なリズムですが、中盤から彼女のハイタッチでしかも力強いクリアーの演奏が延々と続きます。Mr.北川のベースは絶品と言えますが、彼女の8分以上予断を許さない展開がどんどん続きます。なんていいんだぁ。って感じです。個人的にはこの曲が最高でした。
Horizon」は彼女の超絶的な技巧の感性を、このホライゾンで実感します。それは聴けば理解できるという類の納得感でした。とても、エキサイティングでエネルギッシュです。
Who Cares?」はガーシュインです。ガーシュインはいい。彼女曰く「私はなにもしないの。快いリズムにただ泳いでいたいだけなのぅ」と。おぉぉ、そうかそうか。泳ぎなさい。絶品のひとひと。
Dismissed」はサバンナを疾走するジープのシーンがバックに映像として流れているような錯覚に陥る様な曲です。広大な草原です。遠くに土煙りが舞い上がる。そんなイメージがします。それと、美紀ちゃんのハスキーな声を初めて聴きました。結構いけてるよ。彼女の声と流れるようなピアノがサバンナの夜明けを思わせる。
Up & Down」は十代に死ぬほど聴いたハード・バップなJazzだ。耳にとても快い。
A Time For Peace」はとても美しい曲です。

さて、皆川達夫との再会ですが、それは「バロック音楽」という1970年代に出版された一冊の本からです。彼の生い立ちとお能とバロックが重なったところに不思議さがあります。

彼は水戸藩士の家系に生まれ、幼時から観世流の謡曲をたしなみとして習わされていた様です。少年期になると「松風」や「定家」などの名曲を謡い、かつ舞っていたという訳です。そんな少年期にあるきっかけで、「グレコリオ聖歌」や「パレストリーナ」の音楽を聴く機会を得たことから、この事がその後の彼の人生を決定する運命的な出会いとなったようです。

邦楽の和声学に体系づけられた秩序とグレコリオ聖歌のどこか日本音楽にも似た不思議な旋律。二拍子でもなく三拍子でもなく、無限に浮揚する神秘的なリズムに音楽の根源的な要素を発見したと彼は語っています。

お能の謡曲とグレコリオ聖歌の組み合わせは、遥か遠く記憶の彼方にある高校生時代聴きこんだ「バロック音楽」を呼び起こします。
皆川達夫は20年担当した「バロック音楽」の放送中に、しばしば曲と作者を紹介しながら、一般的に説明しない演奏家のうまさを伝える人でした。まるでジャス評論家のようにです。

その意味では、早間美紀の音楽は本物であると感じます。

 

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