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Cutty Sark

Cutty Sarkは常に夢を追い続ける希望の帆船です。I still have a dreamのこころざしを持って海図にない航路を切り開きます。

ジャンプする種

2010.06.06

新しいソフトウェア構想を議論することは、楽しい反面アウトプットの成果の可否に不安が残るものです。
テーマを絞るとおのずとシュリンクしてしまうし、拡大すると収拾不能に陥ることが想定できます。
手馴れたセッションリーダーの存在の願望はありますが、ぐっと堪えて育成することを選択することによって結局は長期的にみて大きな成果が期待できるでしょう。
生みの苦しみは当分続きますが、大勢でセッションすることは、距離感が徐々に溶解していくようで気持ちも抑揚します。そして、その時点で当初の目標よりは比較的容易にブレストの効果を感じることが出来ます。
ですが、
限られた時間の中で経営の根幹に影響を与える議論は、着地が手の届く範囲とは限らないところに底無しの落し穴があります。
しかし、その不透明さが大企業の安定的な連続性でなく、ベンチャー企業独特の非連続な社会を作り出していくのでしょう。

英国に著名で代表的な文献学者がいます。19世紀後半から20世紀にかけて「英語語源辞典」等、多くの大著を残しました。
彼の名は、「ウォルター・W・スキート」です。彼の偉業は独力で英国最初の、しかも今もって最大の語源辞典を完成させたことで不滅の栄誉に輝いています。その意味では数少ない古くて新しい文献学者かも知れません。
スキートは独特の「時間軸」と「持続力」を持ち合わせた人でした。
彼の仕事のやり方は、どんなに難しい語源の単語にも、三時間以上の調査をすることはなかったそうです。三時間調べてもわからないときは、彼は「不詳」として先に進みました。このことが偉業を成し遂げたひとつの要因として知られています。これはなかなかできません。文献者であればあるほど、でき難い決断であると感じます。

では、経営はどうでしょう。
毎日多くの問題が発生し、且つ現在抱えている障害と合わせると日々その量は増え続けている訳です。
すぐに処理する障害や捨て去ってしまうテーマやしばらく意図的に忘れるものまで多くの処理を都度判断しなければなりません。
しかし、考えてみるとどんな人間にも1日は24時間です。膨大な量の仕事を前提とする場合、時間の使い方は重要なファクターとなることは明らかです。

数多くの大著の秘訣を問うとスキートは、こんなふうに云ったそうです。

「その答えは簡単に言って、私が余暇のほとんど全てをその仕事に捧げたからです。
 毎日、同じテーマについて何時間も着実に仕事をし、
 しかも一年中、ほとんど毎日それを繰り返すならば、
 いかに多くの仕事をなしうるかは、
 本当に驚くべきものがあります。」と。きっと彼の根本はここなんでしょうね。

スキートのような仕事をしたかったら、いやするには、1日中その仕事に関わり、且つ夏休みとクリスマス休暇以外は一年中それをやらなければなりません。
それも何年間も何十年も継続してです。
そこには、ゆっくりと「静かなる持続」という生き方が流れているようです。

スキートの超人的な持久力と集中力を思う時、
昨年98歳で他界した細密画家の熊田千佳慕(くまだ ちかぼ)こと熊田 五郎(くまだ ごろう)を連想します。
熊田千佳慕は、1911年に横浜に生まれ、戦後は出版美術の分野で活躍するようになり、「ふしぎの国のアリス」「みつばちマーヤ」「ファーブル昆虫記」などの作品を発表し、その緻密な画風に評価を受け、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展等に入選しています。
彼のことをフランスでは「プチファーブル」と賞賛しています。

とにかく彼もスキートと同じように「寝る、食べる、トイレ」以外は、昆虫を描く世界に没頭したといわれています。
他界を契機に昨年から彼の追悼展が全国で開催されています。
一度その細密画をご覧になれば、その絵の中に吸い込まれていくのが実感できます。
そこには、普通私たちが感じることの出来ない、非現実的な昆虫の世界へ迷い込んでしまいます。

熊田千佳募の感性の一部を紹介します。
『虫や花たちは今日を悔やんだり、明日を思い悩んだりせず、
 今この瞬間だけを懸命に生きています。
 その生涯を精一杯まっとうしようと、最後まで命を燃やし続けるのです。
 そのことに気がついたら、花や葉が枯れ落ちて土に還っていく姿まで美しいと
 感じるようになりました。自然は自らの美しさを知らないから美しく、奥ゆかしい。
 その美しいという感覚は、愛がなければ持つことができません。』

話は先ほどの「生みの苦しみ」に戻りますが、
そもそもベンチャー企業は「社会変化に作用することが責務」でると思います。
社会に変化を及ぼすことを責務としたならば、それは「ダーウィンの進化論」で言えば、その殆どが滅んいくことになり、結果百にひとつか、千にひとつしかこの世に残らないことになります。

先日、ベンチャーキャピタル会社の社長の知人に会ったとき「10年で存続できるベンチャー企業の生存率は7%以下」ということを聞きました。
なお話は続いて、
「20年後の生存率は2%以下の実に1.7%」だそうです。
だとしたら、
ベンチャー企業に求められる社会変化に作用する責務は、きっと連続性という安定的な流れでなく、そこからかけ離れた突然変異でなくてはなりません。
なので、ジャンプしない種は滅ぶのです。
ベンチャー企業が継続して20年生き抜くためには、何度となく非連続なジャンプを試みなくてはなりません。それも淘汰を覚悟で。

 

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