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Cutty Sark

Cutty Sarkは常に夢を追い続ける希望の帆船です。I still have a dreamのこころざしを持って海図にない航路を切り開きます。

秋の星たちとオバマ大統領

2009.10.11

毎週散策に出かける自由が丘で三十年以上続いている"女神まつり"がこの三連休に開催されます。
10月は"秋祭(あきまつり)"のシーズンです。
ちなみに近所の三軒茶屋の"三茶de大道芸"は来週の週末です。
そういえば、親しい知人が今週末"横浜ジャズ・フェステバル"も開催していると教えてくれました。
"秋祭"は収穫を神様に感謝することと五穀豊穣の祈願から古来より行われているものですが、「能」の起源もここにあるといわれています。稲作を守護する神様は、春に田に迎えいれて、収穫が終わった秋に再び山へ送りるという意味合いがあるそうです。そして、能はその発祥のころ「猿楽(さるがく)」あるいは「猿楽の能」と呼ばれていました。
日本語には美しい季節を表現する言葉が多いですが、"秋祭"の他によく使われる「秋」に因んだ言葉として"秋晴れ"、"寒露(かんろ)"、"秋渇き"や"霜降(そうこう)"などがありますね。
古来、日本人の情緒には洗練された感性を感じますが、特に"行く秋"や"紅葉"は語彙の品格もさることながら、その情景を実感として感じるほど言葉に力があると思います。
とは言え、秋は気候的には過ごし易い季節にも関わらず人恋しくなるのはなぜでしょうか?

"人恋しさ"は、秋の星座をみても同じように感じます。
とてもにぎやかな夏の星座や豪華な冬の星座に比べ秋の星座はスター的存在の星も少なく、数ヶ月間はとても寂しい夜空が続き人恋しさを促進させるようです。

昔々、
ペルシャ湾にそそぐチグリス川とユーフラテス川の狭隘部にあったバビロニアに住む"カルデア人"たちは、世界観や人生観の方針を決めるために星の動きで運命を占うことができると信じていました。五千年前の出来事です。
彼らは現代のように光の技術を持っていませんでしたから、晴れた日の夜は漆黒の夜空に満天の星を仰ぎ見ることができました。
彼らは夜空を仰いで何を感じたのでしょうか?

「夜空を見上げるとそこには美しく輝く星たちが存在し、心をひかれ、想像は果てしなく続き、そして物語りや星たちを称える歌を作る。」
そして、
「神々はきっとひとつひとつの星に存在し、それぞれの役割を持ち、この世界を作り上げた。」
などと想像してしまいます。
五千年前のカルデア人の人生観や世界観はあまりに遠くて想像の域を超えていますが、彼らが名づけた星の名前から彼らの"想い"や"願い"を感ずることができそうです。
その想いとは、
特に明るく星たちや印象的な星たちを繋いで、"羊や牛や蟹やサソリ"など自分たちの身近な動物や生活用品のシルエットを夜空に描きました。彼らのその行為は生活や人生そのものであったかも知れませんが、現代のぼくらは、その事自体がとても新鮮で情感溢れてると感じます。
そして、数世紀後、ギリシャ人たちは"ヘラクレス"や"アンドロメダ"など、神話の英雄や美女や怪獣たちをやはり夜空に配置し、より洗練された物語に発展させ、より複雑にしました。

夏の星たちの中でも存在感のある"さそり座"が西へ回り込んでしまうと、秋の代表的な星である"ペガサス座"の四角形が現れます。二等星がひとつと三等星がみっつの東西方向にやや長いめの大きな四角形ですから、誰でも発見することができます。この四角形の左(東)の一辺は、実は春分点北極星を結ぶとてもドラマチックな線となっています。見方は、この一辺を当分だけ南に下がると春分点となり、春分(三月21日ごろです)のときに太陽がくる方向ということになりますね。
そして、その一辺を北へ四倍伸ばすと北極星がキラキラと輝いています。
この星は、王子ベレロポンの乗馬になって怪獣キマイラを退治する美しい翼をもった天馬ペガサスに生まれ変わる雄大なギリシャ神話に登場します。

カルデア人もギリシャ人も現代の我々も、何千年も変わること無い星たちを見上げていますが、文明の発達と人間の本来持っている本能を徐々に失いつつある私たちは、悲しいことですが夜空を見ても美しく輝く星たちを確認し、「おひつじ」や「てんびん」や「かに」を繋ぐことができません。そして、いつの間にかギリシャ人たちやローマ人たちが作り上げた美しく情緒溢れる物語もいつしか"本の世界"だけになる事でしょう。

"地球はまるい"と普通の人が実感できるようになったのは、鉄道と蒸気船の技術が発達し、大西洋や太平洋の定期航路と"アメリカ大陸横断鉄道"が整備された十九世紀後半になってからだといわれています。

その中心的な役割であったアメリカの鉄道が大きく軸を変えようとしています。背景にあるのはオバマ政権の「グリーン・ニューディール」などの環境重視政策がキーワードです。鉄道は大量輸送機関としては最もすぐれた輸送手段です。人やものを同じ距離で運ぶ場合、自動車の九分の一以下の二酸化炭素排出量ですむといわれています。
私たちが毎日通勤に使用している鉄道や地下鉄ですが、旅客輸送は27%を占めており、世界的にも、先進国の中でも突出した鉄道国家といえそうです。それに反して米国の旅客輸送実績での鉄道の占める割合は、わずか0.3%でしかありません。その代わり自動車比率は70%以上だそうです。なんとなく国柄を表していて、納得してしまいます。

オバマさんの"グリーン・ニューディール"の鉄道へのテコ入れは"日本の成長モデル"を参考にしたようです。日本の鉄道には古い歴史があります。明治以降、旧国有鉄道や民間鉄道企業が長期的な投資で鉄道建設を進めてきました。このような地道な長期的な設備投資によって国内の主要都市を結ぶ大量輸送機関の整備が日本の高度成長を陰で支えた来たことは明らかです。そして、最も顕著な先見性として新幹線の開業があげられると思います。この開通によって東京→名古屋→大阪は経済ベルトを形成し、ビジネスは飛躍的に活性化しました。

ここで興味深いのは、鉄道と自動車産業の関係です。
米国事情を見るとその関係が微妙で後戻りできない大きな阻害要因として映し出されます。
その事情とはこうです。
米国は"地球はまるい"と冒頭述べたように1869年という相当早い時期に大西洋と太平洋を結ぶ大陸横断鉄道を開通させました。これは世界的にも長距離鉄道の先駆者であり、大鉄道国家ともいえました。しかし、その動きはある時点から緩慢に変身します。
それは、1908年にフォードが"T型フォード"を量産した時点とぴたりと一致します。この動きは、経済界だけでなく政治も自動車優先に傾いた方向転換といえます。
しかし、結果的にですが、自動車産業優先の政策でGMやクライスラーやフォードが競争力を保ったかといえば、そうではなかったと現状が明示しています。
それに引き換え、自動車産業で優位に立ったのは、真逆の政策である鉄道を重視した日本や欧州でした。
ここに、笑えないひとつのエピソードがあります。
GMの経営破たんの瀬戸際に、連邦議会が当時の会長であるワゴナーさんを召還しましたが、彼はHQのあるデトロイトから自家用ジェットでワシントンに向かいました。これには、世論は挙って「経営危機の状況を認識していない」と非難を浴びせました。そして二回目に召還されたときに、彼はどんな交通手段をとったかというと、これが自動車なんです。千㌔の道のりを夜を徹してワシントンに向かったそうです。日本国内では大企業のトップが自動車で大阪から東京へ乗って来るとは思えませんね。それが、"ジェット"か"自動車"しか交通手段を持っていない米国の旅客輸送の概念ということになります。このことは、米国という国情を表す出来事といえます。

鉄道国、日本にとって代表的な列車はやはり新幹線です。フランスはTGV、イングランドとベルギー等はユーロスター、ドイツはICEでスペインはAVEと軒並み時速三百キロ級の高速鉄道網の整備を推進しています。英国は欧州先進国で米国同様鉄道整備が遅れた分、やはり自動車産業も空洞化している現状です。
日本や欧州の自動車メーカーが米国より優位に立てた理由はこうです。
自動車メーカーは、鉄道が発達したことによって、街中での運転のしやすさ、燃費のさよに加え、鉄道と競合する長距離での走行性能、快適性等を取込まなくてはなりませんでした。言い換えると鉄道の発展によって、自動車の性能が向上していく誘因となったのです。これも結果的にとしかいい様がありませんが。

さて、オバマさんの鉄道政策ですが、
ロサンジェルス→サンフランシスコ間を筆頭に全米で十路線の高速鉄道網計画が浮上しているようです。中でもシュワちゃんの担当しているロス→シスコ間は新たに1120㌔㍍の専用軌道を新設し、三百五十キロの高速列車を走らせ、全線開通2030年という長期計画を政府援助で動き出しているようです。とてつもない投資です。
穿った見方をすれば、鉄道建設は土木工事が大量の雇用を生み出すうえ、車両、信号システムや路線など素材需要も大きく産業界に大きな期待感を生み、政権維持の強烈な手形になるとも考えられます。
もうひとつ気になるのは、2013年以降に米国が復帰する「ポスト京都」の二酸化炭素削減テーマです。オバマさんもハイブリット車だけでは、到底排出目標に追いつかないことを認識していることでしょう。

どうもこの波は米国にとどまらず、世界的な鉄道ブームになりそうな気配です。
ブラジルでは三大経済都市を結ぶ高速鉄道の計画が今話題になっているそうです。
また、中国はもっとダイナミックで総額四兆元(五十五兆円)の景気対策の目玉として鉄道建設を位置づけています。さらに、ベトナムしかり、インドしかりです。このトレンドは本物になりそうです。

鉄道は18世紀の産業革命の推進力になった蒸気機関によって世界的な動きになり、ほぼ一世紀の間、実質的に時代を牽引してきました。そして、20世紀は"自動車"と"航空機"の時代になり鉄道の影は薄れたかのように見えましたが、「再び鉄道の世紀」になる可能性を感じさせます。

古代パピロニアのカルデア人たちは、ひとつひとつの星たちに命を吹き込み、星たちの輝きや動きの変化に自身の運命を重ね合わせ人生の岐路を委ねました。
オバマさんが推進する「新鉄道の時代」も百年も待たずに米国人が委ねた大統領という"輝き"に必ず「結果」はやってきます。
それは鉄道と自動車のように、それを見た時点で歴史の評価は異なることになります。


参考;"「鉄道新時代」がやってきた" ジャーナリスト Nitta Kengo

 

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